客の迷惑な行動を防ぐためのコツとアドバイス
邪魔は止めてください
我々メンタリストやマジシャンの心を悩ます、時には脅かされることさえある共通の問題があります。
それは、演技の流れを狂わせ失敗させるかもしれない、厄介な客の存在です。
皆さんがこのエッセイを読んで、がっかりしないように言っておきますが、ここではそういう客をどう取り扱うかを論じるのではないのです。
代わりに、私がいつも心掛けている、そうした好ましくない事態を避けるために考えていることを述べてみたいと思います。
客は品物ではない
我々は自分のルーティンの練習にかなりの時間を使います。
しかし、ほとんどの時間でテクニックを磨いたり、セリフを覚えたり、道具の取り扱いを練習するのであり、そこには「客」がいません。
実際にあるルーティンを初めて観客の前で演じる時に、全てをマスターしていれば理想的ですが、往往にして気持ちに余裕がなく、観客との関係にまで気が回らないことが多いのです。
余裕をもって、その場で臨機応変に観客の反応に対応することが出来ない訳です。
つまり結果として、今演じているルーティンの中で客を「もう1つの道具」として扱ってしまいがちとなります。
その事は人間である観客の方でも敏感に感じるものであり、無意識の内にも演技者に対する好感を失って行きます。
そして最悪の場合、「嫌な客」に変化し得るのです。
練習中であっても、観客との無言・有言のやり取りが、あなたのデモンストレーションをより楽しく不思議なものにすることがあることを忘れないようにしてください。
そして、実際の演技中には決して観客を物のように扱わないように、常に人として対応するように心がけてください。
それによって人間的共感が生まれ、あなたが演じるものに「ケチ」をつけようという心理は起こらないのです。
つまり、「嫌な客」は現れません。簡単に言えば、観客に好感を持たれるよう、接することです。
あなたは特別な存在ではない
もちろん、あなたが演じる内容は特別な物でなければ客も来てくれませんが、「特別なことが出来る」という事実は、決してあなたを観客の上に位置付けるものではありません。
観客よりあなたが優れている訳ではないのです。
「客を軽んじてしまう」ということを防止するために、私は時々エフェクトの流れを変更して、客を立てるようなやり方をすることもあります。
例えば、この本の後で出て来るエフェクトでは、私が前面に出て、ターゲットである「星」のカードをすべて取ってしまい、客に残りの違うカードを取るという「ミス」をさせることも出来ます。
しかし、そうすることは「私対客」という対立構図を作ってしまい、うまくないと私が感じれば、私は身を引いて2人の客に参加してもらうようにします。
これで私は客と対立する立場ではなくなるわけです。
もちろん、そうする場合にもネタ的にも、手順的にも、客にすべてまかせて大丈夫だという判断はしておかなければなりません。
演技の際の方針として、私は「客に対して何かを一方的に仕掛ける」というのではなく、「特別な時間を客と共にシェアする」という態度を取るようにしています。
私と客は「不思議を実現し、記憶に残る経験を実現する」ために一緒に作業をするのです。
この事はまた、ユーモアという要素とも関連します。もし、あなたが笑う、あるいは誰かと笑いあえば、他の皆も笑います。
もし、あなたが誰かのことを笑えば、その人は笑いませんし、その人と親しい人も笑いません。そしてあなたの演技を楽しもうという人の数も減らすことになるでしょう。
観客を馬鹿にしてはいけない
今仮に、客に1枚のカードを取らせて「そのカードを皆さんにも見せてあげてください。そうすれば、あなたも密かに気を変えたりは出来ません」と言ったとします。
あるいは、客が心に思った単語を紙に書かせて「これで最後にあなたが違うことを言うことは出来ません」と言ったとします。
これ等のセリフは、ともすれば客の人格を侮辱している感じを与えるものです。
そして、間接的にもせよ、客を侮辱した場合には、後で問題となるような「摩擦」を生じることになります。
特に気を付けなければいけないのは、我々は時として悪意がないのに自分でも気が付かないうちに他人の心を傷つけることがあることです。
発言、セリフには十分気を付けましょう。例えば、上記の2つの例でも次のように言えば、角がたちません。
「あなたのカードを皆さんにも見せてあげてください。そうすれば、皆さんも一緒に楽しめますので」
「あなたの思っている単語を書いてください。その紙は最後にいただいて、私のコレクションに加えたいので」
「さて、この封筒の封をしてください。それで最後に皆さんに信じがたいサプライズを与えることが出来るのですよ」
「私の言うことを注意深く、やってください。そうすればあなたは、これからやる実験で、ここにおいでの皆さん全員を感動させることが出来るでしょう」
使っている言葉は違いますが、これらのセリフの機能は変わりません。
つまり、「ウソは言わないように、違うことを言わないように、気を変えないように、見せないで、しゃべらないで、言うことに従いなさい」等々の言葉の意味するところを違うソフトな言い方・表現で表しているわけです。
もし客が、あなたのルールを破ったら許さないぞ、と思わせるのではなく、客が演技に協力することでその人の人間性が評価され、演技の成功と共に個人的にも達成感・満足感が得られるように、流れを作っていくことです。
ムチではなく、人参を約束することです。
そうすれば、客も反発心を持つことはなく、「嫌な客」に変身することもありません。
他の観客が味方です
以上のような予防的な措置・対応にもかかわらず、実際には、本当にまれに「問題の客」が現れるかもしれません。
ただ、客の行為によって演じているエフェクトが危うくなるようなケースは、実際には2種類あると思います。
1つは、客がわざとではなく本当にミスをした場合です。
例えば、メンタリストの説明に従ううちに何かを間違えてしまったようなケースです。
このケースでは、私は客のミスを指摘して責めるような事はしません。
「今は、私はなかなか私の心とあなたの心をうまく繋ぐことが出来ませんでした。
でも、別なやり方でもう一度試してみましょう」と言って、客のミスを問題にすることはしません。
2つ目は、本当にまれなケースだとは思いますが、あなたが客の悪意を感じた場合です。
おそらくあなたが彼に対し予防的措置を講じる前に、客は既にあなたの演技を邪魔してやろうと思っているのです。
しかしそういう人は、一般世間的にも歓迎されない人物であることが、この後で述べるように、あなたの「救い」となるのです。
あなたが彼を如何に丁寧に扱い、一緒に観客全員のために楽しく不思議な瞬間を作ろう、今日のヒーローになって欲しいと提案しても、そういう人は多かれ少なかれ演技を邪魔しようという意思が見え隠れします。
しかしそのことは、あなただけでなく他の観客も人間として敏感に感じるものです。
つまり、あなたは多くの味方を得ることになるのです。
そこで私はこう言います:「ああ、あなたからは協力していただけるという感じが伝わってきません。残念です。
私は他の皆さんのために何か楽しく不思議なことをやりたいと思っていたのですが、あなたに協力して頂けないという事であれば、仕方ありません。
他の皆さんには申し訳ないのですが・・・」そしてホッピングであればその客の一団を去るか、ステージであればその客に自席に帰ってもらいます。
こうしてあなたはトラブルへと進むのを回避しますが、他の観客もこれはあなたのせいではないと納得してくれるはずです。
観客も人間であり、常識的におかしいことは排除するのに協力してくれます。
結論
「嫌な客」の事を真剣に考えるならば、あなたは自分のパーソナリティーやプレゼンテーション、演技環境について、よく検討・準備しておく必要があります。
あなたのパーソナリティーは、目の前の客に如何に対処するかを決めるものです。
客とは対等であり、まして物やあなたの踏み台ではありません。
敬意と人間性をもってどんな客にも接しましょう。
プレゼンテーションは、あなたの観客に対するこれからやる事の具体的な姿の提案であり、観客と一緒になって不思議な忘れ難い経験を作るのです。
彼らはそれを目撃し経験出来る特別な人達であり、時には今日のヒーローでさえあるのです。
そうなるように気を配りましょう。
そこであなたが演技することになる演技環境は様々で、客層も大きく変化します。
しかしどこであれ、1人の客のわがままは他の客の邪魔であり、その客は、他の観客が折角の演技を見る機会を逸した責任を取らなければなりません。
あなたがステージにいるなら、「嫌な客」は毅然として拒否して、彼によって生じるかもしれない失敗・トラブルを未然に防止しましょう。
そしてさっさと次に進めば良いのです。
観客が味方です。
―「本:ユアマインド・シリーズ3」内エッセイ:Vincent Hedan著より―
この投稿へのコメント